まず、前提知識として簡単に説明すると、「こちら側」というのはデバイスなどのタンジブルなIT産業、「あちら側」というのはグーグルを代表するネット情報産業と思っていいと思う。詳細は本人の元のエントリーを参照してください。

ではなぜi-podというモノを売るアップルが「あちら側」なのか。

まず、少なくともアップルは、あのクオリティでデザインを続ける限り「こちら側」での販売には限界があるように思える。ネジ山が見えなかったり、ポリカーボネート２層構造といったような「美しい」商品では、所詮薄利多売にしかならないはずだ。近年のアップルの極端なミニマリズム指向は、デザインと製造コストを無理矢理両立させようという苦渋の選択にも見える（だからこそi-podはミニマル臭を打ち消す為に、矛盾するようなポップな広告が必要なのではないだろうか）。

むしろ、i-podを普及させるだけならば、利益にならないmusicstoreを開設するよりも、他者にライセンスを与えるなりオープンにするなりして、純粋にネット音楽の販売経路を拡大させるべきなはずだ。それをしない、ということは先があるということではないだろうか。

で、アップルが求めているモノは何なのか？と考えたときに思ったのはi-podの販売ではなく、新しい形での「あちら側」へのアクセス権ではないだろうかと思い至った。

元々、コンピューター内の情報へのアクセス権はMSによってOSとハードウェアという障壁で独占されていた。しかしインターネット以降、情報の基盤が外部にシフトするにつれてこの一元支配が崩壊しだした。MSは無理矢理にIEとWindowsの統合と言う形で情報へのアクセス権限を独占しようとする。この試みはだが、ブラウザから先の情報のアクセス経路を乗っ取る、というグーグルの奇襲に敗北した。その後のグーグルの戦略は、この経路独占という形に忠実に行われていく。gmail、googleDeskp、orkut, google map、全ては情報へのアクセス経路の独占に特化している。

では、圧倒的な技術に支えられたグーグル・ゲートルウェイは磐石なのか？というと１つだけ致命的な弱点がある。それはインターネットの、さらにはコンピュータの手前に、「あちら側」へのバイパスを築かれることに対してグーグルは余りにも無力であるということだ。これが僕が考えているあちら側への新しいアクセス権だ。「こちら側」から「あちら側」へのバイパスというもの自体は過去にも存在した。だが、これだけの普及率を持ちながら、「あちら側」の莫大な情報量と連結されたメディアは今まで存在しなかったのではないだろうか。

アップルとグーグルが将来的に競合するのかはわからない。
しかしi-podもituneもインターネットの手前の、グーグルを介さない「あちら側」へ扉でとなりうる。そしてアップルはそのゲートウェイの使用を自分以外にの誰にも許可していない。「こちら側」にバイパスを設けつつ「あちら側」を支配する、それがアップルの戦略なのではないのかなと思う。

そういう考え方から見ると将来、i-podなどが持つ機能などはなんとなく見えてくる。

例えば、wireless ipodだけでも新しいユーザー体験としては

・友人のi-podから直接、曲を複製。ネット接続した時点での自動支払い。
・MP3リッピングをされないストリーミングラジオ。そしてそれと連動するシームレスな購入システム。
・WIFIで周囲で流れている曲をそのまま１週間だけ無料で保存できる仕組み。

のようなものが考えられる。どのサービスも。ネットへのアクセス経路が１つであり、他のソフトウェアが走らないことがハードとして保証されて初めて可能な仕組みだ。そして他者は入り込む隙間がない。MSが「あちら側」へのアクセス権を他者のアプリケーションへと解放してしまった（せざるを得なかった）過ちを、アップルは抜け目無くカバーしたプロダクトを作っているような気がしてならい。

i-podが先陣を切り開き、対となる個人機器であるモバイルを押さえる。順番としてはその後に、さきの２つと家電をつなぐデバイスとしてのi-home, vPod といった流れになるんではないだろうか。

素人考えだけど。